乙女ゲームおたくの日記

主に乙女ゲームの感想を書きます。

Paradigm Paradox 共通&栖原カムイ&高遠トキオルート感想

5月27日にオトメイトから発売された『Paradigm Paradox』(パラダイムパラドックス、通称パラツー)の、栖原カムイと高遠トキオの攻略が完了したので感想を書いていこうと思います。

今のところの感想を一言でまとめてしまうと「悪くないけど薄い」。恋愛過程は要所が押さえられていて悪くないのですが、他のいろんなもの(世界観の裏付け、キャラ立てなど、物語の説得力を高めるために必要ないろんなもの)が足りていません。この物足りなさ、ダイロクにちょっと似ています。ただ、個人的にダイロクの方はあまり楽しめず感想を書く気にもなれなかったのに対して、パラツーはそこそこ楽しめていますね。

あらすじ
舞台は近未来の世界。主人公たちは外界と隔絶されたコロニーで暮らしています。コロニーは度々「害獣」と呼ばれる外敵に襲撃されますが、身を挺して戦うヒーローたちのおかげで主人公を含む一般市民たちはいたって平和な日常を送れていました。
主人公はある日、害獣に襲われかけますが、珍妙な格好をした四人組の女の子に助けられます。超能力を駆使して戦う彼女たちが、噂に聞いていたヒーローだったのです。
救出された主人公は、潜在的な超能力の資質を見いだされて、彼女たちの仲間に加わるよう命じられます。もちろん最初は戸惑うものの、自分と同じくらいの年齢の女の子たちが人々のために戦う姿に憧れを抱いたこと、平凡な日常に飽いていたことを理由に彼女たちの仲間になることを受け入れます。

以上が序盤の内容ですが、これだけ見るとバトルもの美少女アニメですよね。かわいい女の子の立ち絵がずらっと並ぶ画面を見て「これは本当に乙女ゲームなのか・・・?」と何度か思ってしまいました。その立ち絵が本当にかわいくて、普通に男性向けアニメとして通用しそうなビジュアルだから余計に。特にモカちゃんがかわいすぎます。

彼女たちの正体は主人公と同じ学校に通う少年なのですが、共通ルートの時点ではほぼずっと少女姿です。少年姿で出てくる場面も三回ほどありますが、どれもAボタンを十回押したら終わってしまうくらいの短さ。(体感ですが)
その結果、共通ルートを終えた時点で攻略対象たちの魅力がほぼ未知数状態です。(少女姿ではずっと出てますが、シナリオ上ではまだ点と点が繋がってないので)

 

さて、二人の攻略を終えた時点で、良いと思った点と良くないと思った点を挙げていきます。

良いと思った点
・綺麗なイラスト
夏生氏によるイラストがとても綺麗。乙女ゲームの仕事をされるのは初でしょうか?私は初めて拝見したのですが、立ち絵からスチルの一つ一つのクオリティが高いです。「綺麗だけど、どのスチルでも同じ顔してる・・・」なんてこともなく、表情も豊か。彩色はアニメ塗りに近く、ごまかしが効かない塗り方なのに破綻を感じさせません。

・快適なシステム
全体的に動作が速くストレスフリー。分岐回収も「次の選択肢までスキップ」を使えば一瞬です。
最近プレイしたキュピパラやビルシャナがかなりもったりしていたので、オトメイトやればできるじゃないか!と。その代わり演出面はかなり簡素ですが、乙女ゲームで演出を重点的に評価する人はあまりいないでしょうし、何周もする前提なんだから快適さを追求してほしいですね。
シナリオチャートも使いやすいです。時アポはチャート形式なのに現在地がわからないという痒いところに手が届かない仕様でしたが、パラツーの方はかなり理想的な使いやすさでした。

・無個性寄りの主人公
主人公の小鳥遊ユウキは超能力の素養を持つ以外は平凡な女の子です(少なくとも今のところは)。比較的個性の薄めな主人公で、プレイヤーの心理とシンクロしやすいと思います。
相手に歩み寄るほどよい積極性や、言いたいことをきっぱり言える度胸もあり、物語を楽しむ足枷にならない良主人公です。ビジュアルもかわいいし。

・新鮮味のあるキャスト
パラツーは声優ユニット「8P」とのコラボ企画ということで、攻略対象陣の声優をユニット全員で担っています。
キュピパラに出ていた榎木淳弥さんと、最近聴いたシチュエーションCDが素晴らしかった八代拓さんはわかりますが、あとのメンバーは馴染みのない方ばかりでした。それは普段乙女ゲームにあまり出ない面子が揃っているということで、なかなか新鮮味がありました。
女性声優陣のボイスも可愛くて良かったです。知らない方も多かったですが、折笠富美子さん、伊藤静さん、上田麗奈さんは私でも知っていたので謎に豪華だな・・・と思いました。
乙女ゲームの女性キャラに有名声優を起用するメリットはあまり無いと思うのですが、それでも知ってる方がいるとテンション上がりますね。オラソワの沢城みゆきさんとか、百花百狼の早見沙織さんとか。

・恋愛描写の手堅さ
丁寧とまで言うと言い過ぎになりますが、お互いに惹かれ合う過程は要所が押さえられており納得のいくものでした。
どちらのルートも両思いになってすぐ終わってしまったのもあり恋愛模様は至ってプラトニックで、いわゆる糖度はかなり低いです。ジャックジャンヌの白田先輩ルートよりもずっと低い。
個人的にはこれはこれで。

モカちゃんがかわいい
立ち絵が現れるたびに見とれてしまいました。髪型も顔も衣装も一番かわいい。

良くないと思った点
・描写不足
まず、攻略対象の人間性に迫るエピソードが圧倒的に足りてないと感じました。各エピソードの内容に特に不満はないのですが量が足りない。
親友をやむを得ず手にかけてしまった主人公を、選択したキャラがそれぞれのやり方で慰めてくれる場面は良かったのでそういうのがもっともっと欲しかったです。
キャラ立てをそこそこに仲を深める過程を描き始めてしまう感じ、なんとなく二次創作を読んでるような気分になります。二次創作は原作でしっかりキャラが立っているからそれでもいいんですけどね。
たぶんスタッフの中ではちゃんとキャラが練られていて魅力も確立しているのに、肝心のアウトプットが十分でないのでしょう。

・性転換要素が活きていない
パラツー、男性声優にしか期待してないユーザーが多いであろう乙女ゲームでたくさんの女性声優を使ってまで性転換要素を取り入れた怪作ですが、その要素が活かされているとは思えませんでした。
性的な要素がほぼないところは今作の良さでもあると思いますが、どうせ性転換やるならもう少し性に踏み込んでもいいのでは。
一緒にお風呂に入ることになって・・・みたいな展開もないし(硬派なジャックジャンヌでもそういうのはあったのに)、
少女姿で親友レベルに仲を深めてから実は男だった!ならドラマティックな展開にできそうですが、少女姿の彼らとは信頼はあるもののあまり踏み込まない関係なので正体がバレてもそれほど衝撃的にはなりません。割とあっさり受容します。
でもそれなら、女児向けアニメでよくある(?)衣装と髪型しか変わってないのになぜか別人扱いされる都合のいい「変身」概念でもよかったし、なぜか十年後の大人の姿になるとかでもよかった。同じ声優の二通りの演技が楽しめますし。それだと主人公が加入する動機が薄くなってしまうか。
ただ、最初は別人にしか見えなかった二つの姿が、言動に共通点を見つけたり、だんだん少女姿でも素を見せてくれるようになったりすることで一致していくのは結構面白かったです。
男性声優と女性声優の、全く違う声帯から出る声が確かに同一人物によるものだ!と思えてくる感覚は、確かにこのゲームでしかできない体験でした。
売上に繋がるような魅力ではないのは否めないと思いますが・・・乙女ゲームが売れなくなってきても謎の挑戦をやめない、オトメイトの冒険心に感服すればいいのでしょうか。

・バッドエンドがおざなりすぎる
戦闘中に選択肢を誤ると敵に殺されて即バッドエンドを迎えますが、いくらなんでもあっさりしすぎています。バッドエンドが大の苦手な私でも無心で見られるレベルです。
気を抜けば命を落としてしまう緊迫感を表現するためという意図があるのでしょうが、乙女ゲームにおいて「萌えないバッド」を入れることは有罪、ギルティです。
即バッドといえばピオフィの楊を思い出しますが、彼の機嫌を損ねたら即バッドという仕様は彼の奔放で危険な男というキャラ性を表現するのに役立っているし、そんなヤバ男が正しいルートをたどれば主人公に執着してくれるという「萌え」に繋がっています。
パラツーのバッドエンドはそういうものにはなってないので、入れない方が良いタイプのバッドエンドだったと思います。

 

次はキャラ別の感想を書いていきます。

栖原カムイ(cv.髙坂篤志)
髙坂さん、私がお名前を見かけるのはプロイセン以来ですね。
カムイ先輩こと栖原カムイは、学校で常に女の子たちに囲まれている色男です。
でも決して気取っているわけではなく、取り巻きが無意識に迷惑行為をしてしまっているときはちゃんと気づいて指摘できる気配りマンでした。
戦闘で親友を失った後、学校で沈んでいる主人公をカムイ先輩は懸命に励ましてくれます。
彼に限りませんが「本当は戦友としてもっと親身に寄り添いたいのに、正体を隠している都合上ただの顔見知りとして優しくするしかできない」というシチュエーションはなんだかもどかしくて、それでいて優しさはしっかり伝わってきて心温まりますね。励まし方に個性が出るのも良い。
まだ全員分は見れていませんが、カムイ先輩が一番シンプルに「優しくしてもらった」感がありました。シンプルに社交性が高い。

個別ルートではそんなカムイ先輩の過去が明らかになります。
彼は幼い頃に事故で両親を失っています。愛情深い祖父に引き取られて育ちましたが、寂しがり屋のカムイ先輩はもっともっと多くの愛を求め、周囲に愛想や親切を振りまくようになります。時に無理をしてでも相手によって都合のいい人を演じて愛情を得ようとしてきたようです。
予知の能力に目覚めたときも、これでもっと人の役に立てる(=愛される)とまず喜んだらしく、いじらしいというか痛々しいというか。
そんな事情を知らされたら放ってはおけないですよね。乙女ゲームは放っておけない男が強いので、カムイ先輩は人気出そう。

けどできれば共通ルートの時点で、取り巻きの女の子たちの関心を得るために無茶をしてしまう様子を描いたりして、彼の抱える問題の片鱗を見せておいてほしかったなと。
このゲームはそういう積み重ねが全体的に足りていないんですよね。

また、カムイ先輩が変身時にわざとらしいお嬢様言葉を話してまでキャラを作っているのは、正体がバレないために別人を演じた方がよいと司令に勧められたからだそうです。
確かに、別人を演じようと思ったら口調から変えてしまうのが一番やりやすいのはわかります。
(でも彼女たち、一般市民に目撃されることがほとんどない存在のはずだから演じる必要なくないか?と思うのですが。メンバー同士は正体が男性であることを知っていただろうし)

高遠トキオ(cv.八代拓)
マイペースな性格の同級生。研究が趣味で、学校内に自分の研究室を持っています。
無愛想に見えますが本人に突き放しているつもりはなく、人と親しくする方法、人に優しくする方法がよくわかっていない子という感じです。
親友を失った主人公を慰めるパートでは、ほとんど話したこともない(ということになっている)はずの主人公を突然自分の研究室に招待してくれます。自分にとって居心地のいい場所だから主人公にとっても居心地がよかろうと思ってのことらしく、人の喜ばせ方がわからないなりに何かしようとしてくれているんだと微笑ましくなりましたね。

そんなトキオくんのルートは、彼的には善意でしたことで主人公が傷ついたけど仲直りして、両思いになって、敵と交渉して攻撃を一旦やめてもらえることになった!やったね!という感じの内容。
彼に関してもキャラ立てはやはり十分とは言えませんでした。
頭はいいけど人の心の機微には疎い系キャラとして作ったのはわかりますが、後半はともかく「頭はいい」の描写をもっと頑張ってほしかったです。
研究室で白衣を着ているだけで、頭がいいとは思えません。
あと何のためかよくわからない土壌採取もしていましたか。魔法少女のような姿で土をいじっている様子は想像すると面白いですが。
また、主人公やセナ、モカと違って生まれつき能力を持っていたと語られるのですが、そのためにどんな苦労や変わった経験をしてきたかも是非知りたいところなのに描かれていません。
こんな風に、もっとここ掘ってくれたら・・・と思うポイントが次々出てくるということは、キャラに興味を持てている証拠でもあるので、こうは言っていても私はこのゲームを楽しめているのでしょう。

ちなみに、少女姿だと活発な印象になるのは、早く害獣討伐を終わらせたいからと、能力者歴の長い自分がみんなを引っ張らなければと普段より気合いが入っていたからで、演技のつもりはなかったとのこと。
確かに口調そのものは変わっていないし、カオリの根がドライなところにはトキオくんを感じます。
さらに、正体がバレた後、気が抜けた状態での彼女の話し方は確かに「トキオくんだ!」と思える演技になっていたのが面白かったです。

 

以上、二人の攻略を終えた時点での感想でした。
今作、決して嫌いではないけど、これだけ掘り下げの甘い作品が高評価されてなるものかという思いもあります。五段階評価なら三が限度かと。
全員攻略できるかわかりませんが、モカちゃんがかわいすぎるので次はミハヤくんを攻略したいです。あと雪波くんのビジュアルも好みすぎるので彼の攻略も頑張りたい。