乙女ゲームおたくの日記

主に乙女ゲームの感想を書きます。

破落戸どものマリア 感想 主人公が一番ヤバイ乙女ゲーム

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ノベルゲームコレクションに投稿されているフリーの乙女ゲーム『破落戸(ごろつき)どものマリア』をプレイしました。

キャラが魅力的でシナリオも面白く、え、これ無料で遊んでいいの!?と思うクオリティの名作でした!

以下、簡単な紹介と感想を書いていきます。

 

殺伐とした裏社会を生きる男たちの、そしてマリアという女の物語

登場人物の多くは暴力団員で、主人公のマリアも堅気として生きてはきましたが暴力団員の娘として裏社会の恐ろしさをよく知っている女性です。マリアが父の死の真相を知るために、父が所属していた組と敵対関係にあった組に(組長に偶然気に入られたのを利用して)潜り込むところから物語は始まります。

攻略対象は4人です。主人公が潜り込んだ加賀爪組組長の義雄、義雄に惚れ込んで部屋住みをやっているナオミ、組に入って3年と新参ながら有能なヒラト、マリアの幼馴染でマリアの父がいた組の構成員のガブリエル。

このうち、ある程度恋愛らしい恋愛展開になるのはナオミとヒラトで、義雄とガブリエルは恋愛というより娘あるいは母親を求める気持ちに近いと思います。

選択肢の数は少なく、わかりやすいので攻略で詰まることはないと思われます。恐らく全てのエンドを見ましたが、かかった時間は3時間くらい。

主人公のマリアが明るくお茶目な性格であることもあり、平時のやりとりはコメディチックで楽しいものですが、個別ルートに入ってみるとどのルートでも誰かしら死ぬ(主にガブリエルが死ぬ)波乱に満ちた展開が待っています。

暴力の世界のお話なのである程度残酷な描写もありますが、ビジュアル面では血しぶきを浴びた立ち絵があったりするくらいでそんなにグロくありません。なのでグロがあまり得意でない私でもプレイすることができました。

 

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こんな感じで、立ち絵やスチルの上に文章が表示される古き良き?ビジュアルノベル形式です。

地の分が多めなのですが文章は読みやすく、自然と『破落戸どものマリア』という作品の世界に引き込んでくれます。

 

主人公のキャラが個性的

主人公のマリア…マリア・花房・グレコはヤクザの娘として生まれながらも堅気として30歳まで生きてきたキリスト教徒の女性です。以前は介護の仕事をしていましたが、父の死の真相を知るために治安激悪の故郷に単身で戻ってきました。陽気で計算高く肝が太い、なかなか見ないタイプの乙女ゲーム主人公です。

彼女には殺人を犯した過去があり、自分は人並みの幸せな人生を送ってはいけないと思っています。そして自らの体に烙印を押すように、背中に大きな刺青を入れています。この刺青、どのルートでも効果的に使われていて面白いんです。

個人的に、マリアが魅力的なのは、キリスト教徒で「マリア」といういかにも聖女っぽい要素を持ちながら(実際、弱者には慈悲深い女性ですが)男に都合がいいだけの聖女ではない、むしろ根っから大人しくはしていられない性分なところだと思います。その性分が最も現れていて最高なのが義雄ルートですが、それはキャラ別感想の方に書きます。

 

次はキャラ別の感想を実際にプレイした順に書きます。ネタバレはちょいちょいしています。ちなみに私はそうだな…ヒラト推しかな。

 

・ガブリエル

ガブリエルは加賀爪組と敵対する組の構成員。5年前に18歳だったという記述があった気がするのでたぶん23歳です。組では下っ端のほうのはずですがボスに気に入られており、冷静沈着かつ冷酷な性格もあって組員たちからも畏怖される存在のようです。

マリアとは幼い頃からの知り合いで彼女を非常に慕っており、13年ぶりの再会ですが今でも強い執着心を見せます。彼女の前では普段の冷静さもどこかに行ってしまうようで、マリアと他の男がいい感じになるたびに青筋立てて怒り狂う様子は、物騒ながら可愛らしいです。

特にナオミちゃんルートのあれは笑った。ナオミちゃん的には笑ってる場合ではないでしょうが、作中屈指の爆笑シーンだと思います。

彼のエンドは、ヒラトルートの最後の選択肢でガブリエルではなくヒラトを撃つことで見られます。

私はナンパな優男キャラが好きなので、最初はヒラトを攻略するつもりでしたが、なんやかんやあって最後の最後でヒラトを撃つことにしました。そしたらガブリエルエンドに。

貧しく余裕のない家庭で育ったガブリエルは愛情に飢えており、自分を母のように愛してくれたマリアの存在をずっと心の支えにしてきたようです。

彼はマリアにだけは優しいものの作中でもぶっちぎりの悪人なので、本人のエンド以外では死亡します。それもマリアの手にかかって。

ガブリエルは昔マリアに「自殺はいけない」と教えられたために死にたくても死ねず、裏社会に適応するために苦しみながらも「男らしく」生きてきましたが、本当は(自殺という手段を封じた張本人の)マリアの手で殺してもらえることを望んでいたのです。

更生するという選択肢は彼の中にはありません。実際相当困難だろうし、何より本人が他に自分の生きられる世界はないと思っているからです。悲しい。ガブリエルに限らず、こういう社会の爪弾き者たちの悲哀みたいなのが印象的なゲームです。

 

・ヒラト

加賀爪組のスケコマシな構成員として登場するヒラト。

どのルートでも中盤以降には明らかになるのですが、彼の正体は警察官です。捜査のために一構成員として数年間加賀爪組に潜り込んでいました。女をシノギにするヤクザという設定で不自然でないようにチャラ男のフリをしていたようですが、本当の彼は非常に真面目で“真っ当”な男性です。正義感も強く、悪事をはたらいて社会を乱す暴力団を本当は心底憎んでいます。

マリア含めて他の登場人物は軒並み恵まれない境遇だったのに対し、ヒラトは太い実家持ちの公務員。環境の差は歴然です。金髪サングラスに赤スーツというナリでも上品さは隠しきれないようで、どのルートでも義雄は薄々見抜いていたようです。瑠人くんにもバレていましたね。

両思いになったマリアをホテルに誘うときのセリフには女性を気まずくさせない配慮がよく表れていて、こういう場面での男性の態度としてかなり“正しい”なと思いました。この場面に限らずヒラトってやってること自体はめちゃくちゃ正しいんですが、それ故にか時にどうしようもなく独善的です。それがこの後の場面。

誘いに応じたマリアと一緒にホテルに入るものの、マリアの刺青を見て動転します。暴力団を害虫呼ばわりして憎悪を露わにするヒラトにマリアは「私はその害虫の娘よ!」と平手打ちをかまし、ホテルに置き去りにするのです。

害虫呼ばわりもそうですが、マリアが決死の覚悟で入れた刺青を消せるなら消そうと言われたのも腹に据えかねたのだろうと思います。ヒラトさん、正義感はあっても想像力が足りないというか、自分が正しくいられるのも恵まれた環境のおかげで、「害虫」たちだって環境さえもっと良いものなら…みたいな視点が欠けているようです。基本はいい人なのですが、マリアと結ばれた後もまた何か余計なことを言いそうだし、政治の話になるとたまにピリッとした空気になりそうで嫌ですね。

でもフィクションのキャラとしてはそういう独善性がある男性は好きです。やたら守る救う言うタイプの。

 

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あと、ヒラトルートのこの場面のマリアが私はすごく好きです。自分そっちのけで掴み合う男2人を醒めた目で見るマリア。勝者へのトロフィーのような扱いをされる未来を予期したマリアはこの後隠し持っていた銃を手にとり、銃弾でもってその扱いを拒否するのです。痺れる。

 

・ナオミ

非常に短気で怒りっぽく、登場時点では加賀爪組で最も暴力団員らしく見えたナオミですが、人柄を知るうちにむしろ裏社会向いてないのでは?と思えてくるほどのお人好しでした。攻略対象4人で一番マトモだと思われます。(前述のように、ヒラトは致命的な欠陥持ちなので)

彼のルートでは彼とガブリエルとのBL描写があります。行為だけ具体的に言うとキスです。

ナオミはマリアに好意を抱きますが、それゆえに彼女を暴力が蔓延する自分たちの世界から遠ざけようとします。ガブリエルがマリアに執着していることを知り、どうにかマリアを諦めてもらおうと考えるナオミ。同時に、ガブリエルがマリアを強く求める姿から彼の孤独を感じ取り、その孤独は自分にも覚えがあると考えます。そこで思い至ったのが、自分がマリアの代わりにガブリエルを慰めることでした。ガブリエルも共感を寄せられて悪い気はしないようで、その流れでキスをするのです。

この場面を見ると、ガブリエルの孤独に真に寄り添えるのはマリアではなく同じ世界を生きる「男」のナオミなのかもなあと思います。マリアも孤独な女ですが色々と状況が違うので、側にいても分かち合うことはできないのかもと。(ガブリエル的にはマリアはいてくれるだけでいいのでしょうが)

しかしナオミちゃんはいい人です。マリアのためを思って自分の想いを圧し殺そうとしたり、しびれを切らしたマリアに情熱的に誘われて実際興奮してても鉄の意思で拒否したり。それでマリアが余計ナオミを好きになってしまうのもわかるというものです。

結局、彼は足を洗ってマリアと共に堅気として生きることを決意します。ヒラトルートではおっかなかった義雄ですが、抜けたいと申し出たナオミのことはあっさりと見送り、そのうえ金まで持たせます。逆はわかるけど組長が辞めていく人間に金を渡すとは?という感じですが、義雄ルートをやると腑に落ちます。大切な娘が気のいい男と結ばれたのなら、快く送り出すのが父親というものだし、義雄はそういう父親になりたかったのでしょうね。

 

・義雄

タイトル画面にいるだけあって、このゲームのメインヒーローは義雄なんだなと納得させられるストーリーでした。父の死の真相を知るというマリアの目的が唯一果たされるルートであると同時に、他の2ルートを凌駕するドンパチが繰り広げられるルートでもあります。

妻子を亡くしてから腑抜けたようになっていたという義雄ですが、持ち直してくるとそれはそれはおっかないおじさんでした。組長やってるだけあります。

しかし基本的に、マリアにはとても優しい人です。マリアは一応「組長の女」として彼らの拠点に出入りすることを許されているのに、義雄は一向に手を出してきません。マリアも疑問に思いますが、自分のことは父のように思ってほしいと義雄は言います。

しかし、実はマリアの父を殺したのは他でもない義雄でした。

マリアの父はかつて、義雄を殺すつもりで間違えて義雄の妻子を死なせてしまいました。相手の家族に手を出すつもりはなかったマリア父は流石にすまなく思いますが、義雄が許すはずもなく、復讐としてマリア父を殺害したのです。

家族を奪った憎い男の娘であるマリアを、仕返しに殺すのではなく父の立場を奪うという発想になるあたり、義雄はなんだかんだ言って人恋しいおじさんなんだなと思いました。マリアがなまじ魅力的な女性だったので、自分の娘ということにしてしまいたかったのでしょう。義雄の意図を知って憤るマリアですが、彼が死ぬ間際にはその望みを叶えてあげるあたり慈悲の女神です。

 

義雄ルートのヒラトがよかった

加賀爪組の若い構成員がむごたらしく殺されたとき、他の面々が抗争の予感に息を飲む中、ヒラトだけが彼を哀れんで涙を流していた場面が印象的です。やっぱりこの人基本すごくいい人だよなと。内心では、まず最初に死人を悼むこともできない害虫どもがと敵意を強めているのかもしれませんが。

それと、腕を切断されたヒラトにマリアが駆け寄ったときの「いいから、マリアいいから…」に萌えました。彼のルート以外では基本マリアちゃん呼びですが、極限状況で素が出たのか呼び捨てになっているのがいいのと、「いいから」という言葉に優しさを感じました。

なんだかんだいってヒラトが印象に残ってしまうあたり私はヒラト推しなのでしょう。

 

そしてマリアが出した答えは…

義雄ルートでは当の義雄が命を落とし、マリアはひとりになってしまいます。

しかし思えばヒラトルートでもナオミルートでも、男たちがマリアを置き去りにする場面がありました。男だけの戦い、男だけの孤独。

ヤクザの娘な上に容姿から「ガイジン」と見なされ世間から除け者にされ、救いを求めて頼ったキリスト教も女性を差別するし、その上裏社会からも結局は女だからと排除される。どの世界もマリアの受け皿にはなってくれません。

そんな状況でマリアはなんと自分が始祖として新興宗教を作るという答えを出します。居場所がなければ作る、バイタリティあふれるマリアならではの行動です。高額なお布施がどうとか不穏な話もあるようですが、孤独な人の心に入り込むのが上手そうなマリアのことなので、きっと多くの信者を獲得していくことだろうと思います。

結局、主人公が一番ヤバい乙女ゲームでした。男たちは本人がヤバいというより、裏社会に適応しようとしてああなったという感じなので。