乙女ゲームおたくの日記

主に乙女ゲームの感想を書きます。

乙女剣武蔵(巌流編)感想 幼馴染三昧!

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花梨さんの最新作「乙女剣武蔵」。割と初期の段階からsweet princessでこの作品のことは知っていたのですが、コンシューマーで出ると思っていたらいつの間にかスマホゲーとしてリリースされていたので、驚きつつ、ダウンロードしてみました。

第1章にあたる巌流編をやってみた感想としては、めちゃくちゃ面白い!!今イチオシのスマホゲーです。

 

・あらすじ

主人公の小倉庵は巌流島(現実の巌流島は無人島ですが、この世界では田舎ながら人が暮らしています)で生まれ育った高校2年生の女の子。両親は失踪しており、父の剣術の弟子兼、庵にとっては兄のような存在である沢庵和尚と2人暮らしです。

ある日庵は自宅の蔵で古い木刀を発見しますが、その木刀に触れると、宮本武蔵を名乗る男の霊が見えるようになってしまいます。

武蔵いわくその木刀(武蔵は木剣と呼んだ)は武蔵が生前に使用していたもので、庵は宮本武蔵の剣を継ぐ二代目だということです。

庵は幼少期には剣の稽古をしていましたが今はむしろ敬遠しており(その理由が両親の失踪とも関係しているのですが)自分が二代目・宮本武蔵なんて何かの間違いだと考えます。しかし武蔵の霊を見てから、宮本武蔵に叩き切られた剣士の子孫を名乗る者が続々と現れ「二代目宮本武蔵、覚悟!」と襲いかかってくるようになります。

人違いだと言っても刺客たちは耳を貸しません。捨てても捨てても何故か自分の手に戻ってくる木剣を手に、庵は否応なしに戦いに身を投じることになります。

 

基本的には、庵が襲いかかってくる剣豪たちを切って切って切り伏せるお話です。

乙女剣武蔵の珍奇なポイントとしては、切った相手がみんな主人公に夢中になってしまうこと。宮本武蔵への怨念が庵への愛に昇華?してしまうようなのです。恨みも愛も執着という点では同じなので、切ったところで逃れられないということでもあります。ただ、愛の奴隷になった彼らは基本的に庵の味方をしてくれるようになります。

これはよく考えると怖い設定で、作中でも(切る前の)剣豪から恐れられています。切ってしまえばもう虜です。

 

庵には佐々木小次郎宝蔵院胤舜柳生十兵衛という3人の幼馴染がいます。幼馴染三昧ですね。ちょうど3人ですし。佐々木くんは小学校に上がる前から、後の2人は小学校からの付き合いなので、3人とも幼馴染みですが佐々木くんが最幼馴染み(最幼馴染み?)です。

このゲーム、この3人のキャラクターと関係性が非常に秀逸なんです。この3人の魅力を自分なりにまとめたくて(欲を言えば誰かに共感してほしくて)この記事を書いています。よかったら読んでください。けっこうネタバレしています。

 

佐々木小次郎(cv.花江夏樹

 公式のコピーは「へたれクールな幼馴染み」

ですが、へたれ要素はあまり感じません。むしろ誰が相手でもズバズバ物を言う怖いもの知らずなキャラです。

普段は素っ気ない佐々木くんですが、実は誰よりも庵の身を案じています。彼女を守るために毎日登下校時に後をつけていたほどです。そこは一緒に帰ろうよ!それが言えないからへたれなのでしょうか。

 

佐々木くんの両親は、佐々木くんが幼い頃に何者かに殺害されています。その後は父の知り合いだという鬼夜叉に引き取られますが、鬼夜叉は佐々木くんを剣豪として育てるために過酷な鍛錬を強います。「男が強くなるには鬼のような憎しみが必要」というのが鬼夜叉の持論で、佐々木くんの中にある両親を奪った犯人への復讐心に目をつけたようです。

虐待と言っても過言ではない指導で傷だらけになった佐々木くんの前に、近所に住む女の子が現れます。庵です。自身も経験者である庵は、傷のつき方から佐々木くんが剣の稽古をしていることを見抜きました。放っておけないと感じたのか、庵はそれからなにかと佐々木くんを気にかけ一緒に遊ぼうとします。後に佐々木くんは、復讐のために生きてきた自分が最低限の人間らしさを保てたことを庵のおかげであるとしています。

ある日庵は佐々木くんに、自分がもう剣を持ちたくない理由を打ち明けます。

剣術の師範である父に稽古をつけてもらっていたとき、父から一本取ってしまったのです。わざと取らせてくれたものと思った庵は無邪気に喜びますが、父としては全くの想定外でした。娘に剣の才で劣ったことがショックで、父は妻子を置いて武者修行に出てしまいます。母も父を追うために、庵を父の弟子・沢庵に託して家を出てしまいました。

庵はそもそも父が喜ぶと思って剣の稽古をしていたのに、その剣が、家族がバラバラになる原因となってしまいました。そのためもう剣を持ちたくないと考えるようになったのです。

これを聞いた佐々木くんは、剣の道が修羅の道と知る者として、庵が二度と剣を持たなくてすむよう彼女を危険から守ると心に誓います。登下校時にストーキングしていたのもそのためでした。結局、庵は剣を取らずにいられなくなってしまうのが切ないですが。

 

そんなわけで佐々木くんは二代目武蔵を狙う刺客から庵を守ろうとします。が、佐々木小次郎といえば宮本武蔵のライバルとして有名。彼の胸の中にもまた、二代目と斬り合いたいという欲望が生まれていたのです。よって佐々木くんは「守りたいけど、倒したい」という葛藤に苦しむことになります。あれですよね、人を喰う種族が人を愛してしまって「好きだけど、食べたい」と葛藤するのに似ていますね。エモいですね。

佐々木くんが庵と戦いたくない理由は「守る対象だから」の他にもう一つありました。庵に切られた剣豪たちはみな、武蔵への憎しみを愛に転化させられ、牙を抜かれたようになってしまいます。万が一自分が敗れたとき、自分の中にある佐々木小次郎の怨念が消え去ることで剣が鈍ってしまうことを危惧していたのです。

そして巌流編のラストで佐々木くんは、両親の仇を探すため+庵と戦うことにならないよう距離をとるために島を去ってしまいます。庵もまた彼を追って島を出ることを決めます。親子の因果を感じますね。エモいですね。

 

私は今現在佐々木くんのSSRを1枚も入手できていません…悲しいことに…ですが、あるSRカードのシナリオがSSR級に最高なんです。

2人での帰り道、庵は佐々木くんが手に負った怪我に気づいて手を取ります。そこへ後から胤舜と柳生くんがやってくるのですが、佐々木くんは2人から逃げるように庵の手を引いて走り出します。いつか野良犬や蜂から逃げるときにも佐々木くんが自分の手を引いて走ってくれたことを思い出す庵。

2人はやがて海辺にたどり着きます。誰にも邪魔されない場所で2人きりになれた佐々木くん、思い詰めたような顔で庵にやっと告げたのは「ずっと友達でいてほしい」というお願いでした。言われなくてもずっと友達なのに変なの、と笑う庵ですが、いつまで庵の側にいられるかわからない佐々木くんにとっては決死の懇願なんですよね…切なすぎる。好き。

 

宝蔵院胤舜(cv.狩野翔)

 公式コピー「飄々としてお調子者な自由人」

胤舜はおおむねコピー通りのキャラクターなんですが、このコピーでは伝わらない重〜要な要素があります。

庵に対する尋常じゃない執着心です。これにおいては佐々木くんにも引けをとりません。

小学校時代に庵に出会って一目惚れしたらしく、人前で「僕の未来のお嫁さん」と言って憚りません。普段は軽いノリで求愛してくる胤舜を庵がさらっと受け流す関係ですが、庵が二代目武蔵として覚醒してから異変が起きます。

最初、佐々木くんと柳生くんは庵が二代目武蔵であることを胤舜に隠そうとします。胤舜の先祖もまた武蔵と因縁があることと、彼の破天荒で自分の感情に忠実な性格を考慮してのことでしたが、カンのいい胤舜は庵が木刀を「木剣」と呼ぶのを聞いてすぐに察します。その場では気づいてないフリをしますが、後日海辺に庵を呼び出して襲撃してきます。

この場面、明るい胤舜が徐々に態度を変えて、自分だけ除け者にされた怒りや、先祖から受け継いだ宮本武蔵への敵愾心といった不穏な感情を露わにしてくるのがゾクゾクするんですよね。私はこの場面までプレイしたことで一気に乙女剣武蔵という作品に引き込まれました。

愛しさあまって憎さ百倍とか、愛は憎悪の始めとかいう言葉がありますが、胤舜は庵への募り募った恋心があるぶん、より複雑で濃厚な憎悪を感じられます。これがたまりません。

そんな胤舜も庵に敗れて以降は、愛用の十字槍を駆使して刺客に狙われる庵を助けてくれますが、佐々木くんや柳生くんほど「守る!」という気概は感じません。庵が自分より強いことを2人より早い段階で認めているからでしょう。

他の2人と違って強くなること自体にあまり興味がない胤舜ですが、庵には勝ちたい理由がありました。その理由が明かされるのが去年のクリスマスイベント「聖夜の聖戦」です。

 

庵が雪山にある寮で行われるクリスマスパーティーに参加することを知った胤舜は、それからロクに学校に行かず家にも帰らずにその山に篭って雪上で戦う訓練を重ねます。庵たちは胤舜の様子がおかしいことが気にかかりますが彼の家に行っても会うことができず、心配を募らせます。

そしてパーティー当日、胤舜は友人たちと楽しい時を過ごす庵を誘い出して決闘を申し込みます。不慣れな雪上での戦闘に流石の二代目武蔵も苦戦しますが、胤舜がなぜか片足を庇うようにして戦っていることに気づき、その隙を突いて辛勝を収めました。

庵としては、一度勝って先祖の怨念を断ち切ったはずの胤舜がまた自分と決闘したがるのが不思議です。

胤舜は、相手に不利な状況で奇襲をかけるという卑怯な手を使ってでも庵に勝ち、ある望みを叶えたかったのです。それは庵に剣を捨てさせ、二度と誰とも戦わせないことでした。

どうやら決闘に勝つことで相手を骨抜きにできるのは庵だけではないようです。(作中では庵はほぼ全勝なので他の人物が勝つとどうなるのか見る機会がありませんが)胤舜は恋敵として佐々木くんを誰より警戒しているので、いつか佐々木くんが庵に勝って、剣豪たちが庵に夢中になるように庵が佐々木に夢中になってしまう前に、何としても先手を打ちたかったのです。一度は敗北して、庵の「これまで通り友達でいてほしい」という希望に従わされ、庵を独占したいという気持ちに蓋をされていた胤舜。人恋しくなるクリスマスの時期にとうとう蓋が外れてしまったようです。しかしまたしてもその望みは叶わず。切ない。

ちなみに決闘の際に片足を庇っていた理由は、庵に勝利した暁にプレゼントするため用意した指輪をポケットに入れていたからでした。このオチまで含めて最高のイベントなんですよ!胤舜が戦う最大の動機である庵への愛情が胤舜の最大の隙になるという点がなんとも。

私は幼馴染3人とも大好きですが、本編といい「聖夜の聖戦」といい、胤舜のエピソードはいちいち破壊力が高い。このイベント以降、称号はずっと「胤舜推し」です。

 

柳生十兵衛(cv.松岡禎丞

 公式コピー「オレ様ワンコな兄貴分」

オレ様(自信家でちょっと傲慢)でワンコ(頼られたがりですぐ乗せられる)で兄貴分(世話焼きで責任感が強い)。一見すると要素が渋滞してそうなコピーですが、こうしてみると割と一貫性があるというか、とにかく「頼れる強いオレ」であろうとしている子です。相手が誰でも、頼みごとをされれば嫌な顔はしないお人好しでもあります。

柳生十兵衛佐々木小次郎宝蔵院胤舜と違って宮本武蔵との因縁が特にないぶん、二人ほどの重い感情はありませんが、柳生くんも庵に好意を抱いているようです。

彼女が刺客に狙われるようになってから、オレが守る!といの一番に下校時の護衛を申し出てくれます。(既に佐々木くんがストーキング護衛してましたが)庵に戦いを挑む刺客たちにも「まずオレを通せ」と出る兄貴ヅラ?彼氏ヅラ?ぶりが微笑ましい。

佐々木くんは復讐を遂げるために強さを求めますが、対して柳生くんは、男としては剣を握ったら最強目指すだろ!みたいな感じです。剣術界において強大な影響力をもつ柳生家に生まれた彼にとっては、剣を握ることも天下無双を目指すことも当たり前のようです。武蔵への因縁はありませんが、二代目として頭角を表す庵を見ていて、あの宮本武蔵の二代目と戦ってみたくない訳ないだろ!みたいな感じで、彼の中にも庵を守りたい気持ちと戦いたい気持ちがせめぎ合うことになります。守るべき女の子として慈しんでいた(ある意味では無意識に下に見ていた)相手の強さに段々と気づきながらも認められないでいる男子のプライドと、そこからくる葛藤みたいなのも見ものです。

結局は欲望に抗えずに決闘を申し込みますが、あえなく敗れます。柳生くんはこの敗北を受け止め、オレが守るなんて傲慢だったと庵の強さを認めます。ちょっと尊大なところもありますが、同時にこうした素直さ、謙虚さも持っているのが柳生くんなのです。

庵に負けてからも、以前と変わらず惜しみなく協力してくれます。剣だけではなく、柳生家で培われた情報収集力も彼の武器。下級生の梅軒を引き込んで、敵対する剣道部の偵察をさせたりと抜け目がありません。外交も上手く、幼馴染3人で最も社会性があるといえます。佐々木くんは冷徹すぎるし胤舜は自由すぎるというのもありますが。

 

佐々木くん、胤舜、柳生くんは、共に武芸を志す盟友であると同時に庵を巡る恋敵でもあります。しかし、圧倒的運命力を誇る佐々木くんや執念で張り合う胤舜と比較すると、柳生くんは一歩引いたところにいるように感じます。剣術においても、祖父の石舟斎に「(剣を極めるには)優しすぎる」的なことを言われている柳生くんですが、恋愛においても勝利するには意地汚さが足りません。そこが愛すべきポイントなのですが…彼のそんな部分がよく現れているのが去年の夏イベントのSSRカードシナリオです。

家の風呂が壊れてしまった柳生くんが「風呂に入りてえ」とボヤくのを聞いた庵は、軽い気持ちで自分の家の風呂に入ればいいと誘います。柳生くんは申し出をありがたく思いつつ、風呂入りに女子の家に行くってどうなんだ?と戸惑います。その場にいた義経くん(ショタです)も一緒に行きたがるので、迷いながらも結局行くと決めたところで、佐々木くんが通りがかります。事情を知った佐々木くんは自分も行くと言い出しました。

家には沢庵もおり、わいわいと賑やかな雰囲気に。内心ホッとしたような、残念なような思いの柳生くん。風呂の後、外に出て風にあたっていたところ庵もやってきたので2人で話をします。庵は、柳生くんのおかげで佐々木くんが来てくれたと感謝します。家に1人きりでいるであろう佐々木くんが心配だけど、自分が普通に声をかけてもきっと来てくれないからとのことです。それを聞いた柳生くんが、庵ちゃんはいい子だなと感心した後の台詞がこちら。

「佐々木の心配もいいけど、たまには……」

「いや……何でもない。ごめん、忘れてくれ……」

この奥ゆかしさですよ。大和撫子か?せっかく好きな女の子と2人きりになれたと思ったら別の男の話をされるというシチュエーションであっても、柳生くんはごく控え目にしか嫉妬心を出しません。強引なことはせずに、ただ優しさを捧げ続けていつか選んでもらえるのを待つというスタンスのようです。いやだから大和撫子か?可愛いな。

 

柳生くんといえば、庵への恋心もですが佐々木くんとの友情もアツいのです。昔から柳生くんは一方的に佐々木くんをライバル視しており、小さい頃は試合を挑んでは負けていました。当時は子どものチャンバラごっことして見逃されていたものの、本来他流試合は禁止されています。なので今となっては戦いたくても易々とは戦えません。ですが今でもライバルとして何かと突っかかり、佐々木くんも応戦するという関係です。側からみているとめっちゃ仲良し。巌流編のラストでは、みんなの制止を振り切って島を出ようとする佐々木くんに斬りかかって、「なぜ君はいつも私の邪魔をする」と佐々木くんに問われ「それはお前がオレのダチだからだ!」と返してからの戦いの流れはアツかったです。(巌流編ラストの戦いはこの2人以外でもいろんな意味でアツいのですが、全部説明しているとあまりに長くなるので割愛します。既に十分長いという。)

 

 

以上です。要は乙女剣武蔵は超面白いのでもっともっとプレイ人口増えてほしい、一緒にこの幼馴染三昧を楽しんでほしいという話です。